42.TOO MUCH SITTING(座りすぎ)の健康リスク ~座っている時間が世界一長い日本人~
保健師便り2021.02.01 14624view
生活環境や仕事環境は機械化され、どんどん便利になりますが、みなさんは1日にどれくらいの時間を座って過ごしているでしょうか。デスクワークや会議、車通勤、ドライバー業務、自宅ではテレビを見る時や、パソコン・スマホを使う時、食事をする時など日常の多くの場面で座っている時間はあると思います。
オーストラリアの研究機関による調査では、世界20カ国の成人を対象とした平日の座位時間を国際比較したところ、日本人成人の座位時間が7時間(420分)で最長であることが示されました。
そして、他の調査では、1日の座位時間が11時間以上の人は、4時間未満の人に比べて1.4倍も総死亡リスクが高いことが示されました。
座ることが健康リスクなのではなく、長時間、連続して座り続けることが健康リスクとなるのです。
長時間連続して座り続けることで筋肉の約7割が集中している下半身の活動が低下して代謝が悪くなり、肥満や糖尿病のリスクとなります。血流が悪くなると高血圧の要因にもなります。
そして、それらが重なることでメタボリックシンドロームとなり、さらに長時間の残業や、睡眠不足なども加われば脳梗塞や虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)などになりかねません。
60年以上前と、だいぶ昔のことですが「ロンドン・トランスポート・スタディ」というイギリスで行われた有名な研究があります。このバスの運転手と車掌における心筋梗塞や狭心症を発症する割合を比べた研究では、運転手の方が車掌よりも2倍も発症する割合が高いことがわかりました。当時のロンドン市内を走る2階建てバスの運転手と車掌のことですが、運転手は座りすぎていて、車掌は立ったままでバス内の階段を登り降りしていた状況でした。
こうした結果からも、座っている時間が長くなる職業などは注意が必要なことがわかります。
世界で座りすぎが問題視されるようになったのは2000年頃からです。
そして、「Sitting is the New Smoking!」=座りすぎの生活はタバコを吸うのと同じくらい悪いという言葉も生まれています。
2012年WHOは、座りすぎが偏った食習慣や過剰な飲酒、喫煙とともに肥満や糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などを誘発して、世界で年間約200万人の死因につながっていると発表しました。WHOによると、世界で喫煙は500万人以上、飲酒は300万人以上の死因になっていて、座りすぎは喫煙や過剰な飲酒と同じように健康リスクになっているということです。
こうした流れから、各国でも様々な取り組みがされています。
イギリスでは2011年に座りすぎのガイドライン(英国身体活動指針)が作成されました。また、アメリカではシリコンバレーのIT企業を中心にスタンディングデスクが浸透し、オーストラリアでは官民一体となり、脱・座りすぎキャンペーンの動画を作成してテレビCMで流すなど、座りすぎの健康リスクが周知されています。
最近では、新型コロナウイルス感染症の影響もあり在宅勤務が働くスタイルの一つとして定着しています。在宅勤務では通勤などで体を動かす機会が減り座りすぎになりやすいため、今後はさらに座りすぎへの注意が必要かもしれません。
座りすぎは体の健康だけでなく、心の健康(メンタルヘルス)にも悪い影響を与えると言われています。
明治安田厚生事業団体力医学研究所による調査では、1日に12時間以上座っている人は、6時間未満の人に比べて、心の健康状態の悪い人が3倍も多いことがわかりました。
座っている時間が世界一長い私たちとしては、座りすぎの健康リスクを緩和するために少しずつでも座っている時間を短くできたらよいと思います。
座りすぎかなと感じている方は、まずは日常の中で30分に3分程度または、少なくとも1時間に5分程度の立ち上がる機会を増やしてみましょう。また、仕事中に、その場で伸びやストレッチをしてみる、お茶を入れに行く、トイレに行く、内線ではなく直接足を運んでみるなどもいかがでしょうか。そして、ちょっとしたことは誰かに頼むのではなく自分で動いてみるのも良さそうです。
作業環境としては、思い切ってスタンディングデスクを試されると今までとは違った気づきなどもあるかもしれません。今あるデスクを一気にスタンディングデスクにすることは大変ですが、今あるデスクの上に何か小さな台などを乗せて、スタンディングを試すのも良いかもしれません。
また、どうしても長時間座っていなければならないときには、座ったまま、つま先を床につけ、かかとをゆっくり上下させてみるなどして、下半身の血行を促しましょう。
TOO MUCH SITTING(座りすぎ)な生活を改善して健康リスクを回避しましょう。これからの健康や元気には、そんな健康管理がますます必要になりそうです。
【参考・引用文献】
スポーツ庁 Web広報マガジンDEPORTARE 日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは・・・
https://sports.go.jp/special/value-sports/7.html
WASEDA ONLINE 「座り過ぎ」が健康寿命を縮める
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/sports_150316.html
スターバックス健康保険組合Web広報誌My Wellness あなたの日常は大丈夫?
実は怖い、「座りすぎ」の話。
https://www.starbucks-kenpo.or.jp/my_wellness/fitness/list15.php
厚生労働省 e-ヘルスネット 新型コロナウイルス感染症流行下の身体活動不足・座りすぎ対策
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-09-001.html
株式会社オカムラ It’s my style 1日7時間 世界一長い日本人の座り時間
https://www.okamura.co.jp/ims/#sp_section1
株式会社オカムラ 立ち姿勢を取り入れた新しい働き方
https://www.okamura.co.jp/ergonomics/standing/
AERAdot. 世界でいちばん「座りすぎ」! 日本人のがん、脳梗塞との関係は?
https://dot.asahi.com/wa/2018101000014.html?page=1
DIAMOND online 30分のデスクワークや運転でも血液ドロドロを招く座りすぎの恐怖
https://diamond.jp/articles/-/145587?page=3
WORKSIGHT セデンタリー・ライフスタイルが健康を阻害する
https://www.worksight.jp/issues/516.html
『1日6時間座っている人は早死にする!』坪田一男著(KKベストセラーズ ベスト新書)
この記事は、神奈川県川崎市高津区にある健診機関「京浜保健衛生協会」が執筆・監修しています。人間ドック/巡回健診/女性のための健診/がん検診など、健診でお悩みの際はお気軽にご相談ください。