35.『気象病』に備える
保健師便り2019.07.03 63158view
雨の降る前に頭痛がする、梅雨時には古傷が痛む、季節の変わり目に体がだるくなったり、めまいを感じたりする。このようなことはありませんか?天気の変化で体の不調を感じたら、それは「気象病」かもしれません。
「気象病」は近年、認知されつつある病名です。天候や気温・気圧・湿度などの気象条件の変化が、症状の引き金となる疾患の総称です。
気象病は、大きくふたつに分類されます。
1.めまい・肩こり・イライラ・倦怠感などの不定愁訴(※)
(※)身体的な症状の訴えがあるにもかかわらず、検査上の数値に明らかな原因が見つからない状態
2.頭痛・関節痛など、持病の悪化
気象病の中でも、特に痛みを伴うものを「天気痛」と呼んでいます。
このように現れる症状は様々ですが、ここでは気象病全般についての原因と対策についてご説明いたします。
温度や湿度など気象の変化の中でも、特に気圧の低下が気象病の引き金になると言われています。
まだ研究段階ではありますが、体の平衡感覚をつかさどる内耳(★)には、気圧の変化を感知し、脳に信号を送るセンサーがあるとされています。
(★)内耳とは耳は、外耳・中耳・内耳の、3つの構造から成り立っています。
外耳は音を集めそれを鼓膜に導き、中耳は鼓膜の振動を内耳に伝え、内耳はそれを聴覚神経に伝えます。
また、内耳は体の平衡感覚をつかさどり、バランスをとる役目をしています。
本来、センサーは気圧の変化に体を順応させるためにありますが、普段から自律神経(注1)が乱れやすい人の場合、センサーからの信号を受けて脳が混乱してしまうことがあります。
平衡感覚の維持には、内耳からと視覚からの二つの情報が一致しなければなりません。しかし、気圧の変化を受けて、内耳からは「体のバランスが崩れた」という誤った情報がとどき、目からは「崩れていない」という情報が届くことがあります。 この「ズレ」で脳が混乱し、交感神経が興奮します。
その結果、
●めまい(内耳の血流の低下)
●頭痛(収縮した血管が反動で拡張し、痛みの神経を刺激)
などが起こります。
慢性的な痛みによって脳に強いストレスがかかり続けると、不安やイライラなどの症状も現れます。
天気によって体調が悪くなってしまう人は、自律神経のバランスがうまくとれずに、めまいが起こったり、頭痛がひどくなったりするのだと考えられています。
下記は、舟久保恵美・慶応大学非常勤講師が作成した「天気の変化による痛みチェックリスト」です。このリストで当てはまる項目が多い場合、その症状は気象病である可能性があります。
●天気が変化する時に体調が悪くなる
●雨が降る前や、天気が変わる前になんとなくわかる
●乗り物酔いしやすい
●日頃ストレスを感じている
●季節の変わり目など気温差が大きい時に体調が悪い
(注1)自律神経は、様々な内臓器官の働きを調節しており、自分の意志でコントロールできない神経です。交感神経と副交感神経から成り、体の内外の状況に応じてアクセルとブレーキの役目を、交代して働きます。活動時には交感神経、休息時には副交感神経が活発になります。
このように気象病が発生するメカニズムは複雑ですが、症状の予防もしくは改善のための、日常生活の留意点や対策をご紹介します。
1.自律神経のバランスを整える
生活リズムを整える、朝食をきちんと摂る、適度な運動、十分な睡眠、朝は熱め(42℃)のシャワーを浴び(交感神経を優位に)夜はゆっくりぬるめ(38~40℃位)の湯船に浸かる(副交感神経を優位に)、など。
2.耳回りの血流を良くする
血流が悪いと内耳のリンパ液も一緒に滞り、めまいや頭痛などの症状を引き起こします。マッサージにより耳周りの血流を改善することができます。
- ①耳を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつ引っ張る
- ②そのまま軽く引っ張りながら、後ろに向かってゆっ くり5回まわす
- ③耳を包むように折り曲げ5秒キープ
- ④耳全体を掌で覆って、ゆっくり円描くように後ろに向かって5回まわす
※朝・昼・晩、1日3回行うのが目安
3.症状を予測し備える
どんなタイミングで症状が悪化するかを知ることにより、むやみに不安にならず、体調の変化に対する心構えができ、ゆっくり体を休めて体調を整えたり、薬を飲むタイミングを図れます。
- ●頭痛日記をつける
頭痛攻略は、観察から始まります。そのためには、頭痛を記録することが重要です。頭痛の起こった日時、痛み方や程度、吐気などの随伴症状、頭痛の誘因となりうること(睡眠不足や寝過ぎ、飲酒、イベント、天気など)を記録します。これにより頭痛が起きるタイミングを知ることができ、更に医療機関を受診する際には、あなたの頭痛の状況を正しく伝えることができます。 - ● 天気予報と連動して気圧を予測し、頭痛のきっかけを知らせてくれるアプリなどを活用するのも良いでしょう。
近年は、地球温暖化の影響もあり、台風・ゲリラ豪雨・猛暑などの異常気象が起こりやすくなってきています。そのため、今後ますます、気象の変化が私たちの健康に及ぼす影響は大きくなると考えられ、適切な対応が必要になります。天気の変化による痛みや体の不調と、上手に付き合っていきましょう。
参考・引用資料
・天気の変化で不調を感じる「気象病」対処法は 日経プラスワン2015/7/2
・「気象病とは何か」(視点・論点) NHK解説アーカイブス2017/9/12
この記事は、神奈川県川崎市高津区にある健診機関「京浜保健衛生協会」が執筆・監修しています。人間ドック/巡回健診/女性のための健診/がん検診など、健診でお悩みの際はお気軽にご相談ください。